オーストラリア:半外飼いの猫たち

オーストラリア・パースの住宅街。中心地シティーから南へ10分ほどの静かな地域。

家の窓から、隣家の庭とわたしの家の庭をへだてている塀の上を見る。
と、そこには「首輪をした雉猫」が器用に歩いている。車で仕事から戻ると、自宅のドライブウェイに入る前に、三軒先の家の前に「首輪をした黒猫」が箱座りをしている。時々散歩をするときに通りかかる大きな家の前には、カリカリと水の入ったフードボウルがいつも置いてある。

隣のうちでは、2年ほど前に彼の手のひらに載ってしまうような小さな仔猫を飼い始めた。1ヶ月ほどたって、もう大きくなったんだろうなあと思い、隣人の顔を見たときに話しかけた。
「ああ、家の前で交通事故で死んだよ」と。あの幼い猫を、外飼いしていたのかと呆れたが、何も言わなかった。

以前住んでいたアパートは、敷地を塀が囲んでいた。大きくて古いビール工場を改造したアパートが百軒近くも入った大きなものだった。そこで5mほど離れたアパートに住む女性は、ロシアンブルーの仔猫たちを2匹飼い始めた。塀に囲まれているからから安心したのか、仔猫たちは首輪をつけていたけれど、敷地内を自由に歩き回っていた。わたしのアパート(3階)まで上がってきたこともある。美しい猫たちだった。
あるとき、夕方に玄関のベルが鳴った。
「わたしの猫が1匹、朝から見えないの」泣きそうになったその若い女性は、しかし、ついに猫を見つけることができなかった。1匹になったロシアンブルーの仔猫は、それでも敷地内を歩いていた。
そして、わたしが案じたとおり、またその仔猫も姿が見えなくなった。
「もう猫は買いたくないわ。だって悲しいもの」と、数週間後わたしと立ち話をした彼女は言った。外に自由に行かせていたことに対する悔恨の言葉は聞かれなかった。

休みに入る前、同僚のひとりがランチをほうばりながら、隣人とのトラブルについて話していた。
「わたしんちでは、絶対に猫を夜は出さないのよ。夕方、ゴハンを食べに帰ってきたらドアを閉めてしまうもの。それなのに、隣の夫婦ったら、うちの猫がオシッコして回っているから庭の草花が枯れてきたって言うのよ。そりゃ、猫のオシッコはくさいし、発情期はうるさいけど、あとは何もイタズラをするわけでもないのに。」
「えっ 去勢していないの?」
「そんな必要ないわよ。雄猫だもの。妊娠するのは雌猫よ。雌猫は手術するべきだけどね」と彼女は笑った。
アンタの雄猫が「たまたま発情期に側にいたノラ雌猫に乗って」その猫を妊娠させたら、その責任は誰がとるのかね、と言ってやりたかったが、ランチ時に喧嘩しても仕方がないので黙っていた。
元々あまり気の合いそうもない社会科教師だったが、その無知と無関心のせいでますますキライになった。

パースの「売ります」「買います」ネット掲示板には、時折「手放さなくてはならなくなったラグドール」の「売ります」広告が載る。先日のものは、「うちの前の道はあまりに交通が激し過ぎて、猫にとっては危険。だから、静かな通りに住むひとに譲ります。」
世界中で、ラグドールの方向性のなさとそのサバイバル能力の欠如が知られていて、しかもどのブリーダーも「内猫として飼ってください」と言われるラグドールでさえ、これだ。

わたしの住んだ国々では、発展途上国であるタイを除いて、ほとんど放し飼いの猫たちを見ることはなかった。
猫を飼っているスイス人は多かったが、そのどれもが内猫として飼われていた。少なくとも、わたしの知るひとたちはそうしていた。

ところが、ここは違う。

わたしの考えていた常識が通じない。
「猫はね、本能で外に出たがるのよ。出さなかったら、かわいそうじゃない。縄張りがあるんだから。」
そのぐらいはわたしだって知っている。だが、「縄張り」を決めるのは「そこを毎日見回りすることができるから」という日常だ。

外に出ることを知らない猫たちには、家の中が縄張りだ。だから、去勢されていない雄猫はその「縄張りを周りの動物たち(ニンゲンを含む)に知らせるために、スプレーする。家中にスプレーする。それが嫌なら、最初の発情期前に、まだ発情期を知る前に去勢するべきだ。
去勢していない雄猫のスプレーに辟易した飼い主たちは、「縄張りを外で自由に見つけられるように」猫たちをドアから放つ。

オーストラリアの猫たちの、そのほとんどが半外飼いなのはそのためのような気がする。なぜか、「猫は自由に外に出さなければならないもの」というまことしやかな常識が確立してしまっているのだ。リードをつけて散歩することなど、思いもよらない。だから、わたしがラグドール仔猫のあいちゃんと一緒にドライブウェイを散歩していると、皆一様に目を剥くのだと思う。

血統書付きの純血種は、それでもほとんどが内猫として飼われているのだろうが、ペットとしての猫の大半を閉めるのは書類のない普通の猫たちだ。そして、知り合いの猫たちが猫生をまっとうした、という話を聞いたためしがない。
交通事故や外猫との喧嘩で、命を失った猫の話は数限りなく聞いた。実をいうと、10歳以上の猫を飼っているひとは周りに1人しかいない。

その話をする知人たちは、一様に悲しい顔をする。彼らがそのペットを家族として愛していたことは間違いない。でも、その愛する猫たちが命を失う可能性を、なぜ起こる前につんでしまえなかったのか。

半外飼いの猫たちは、野良猫ではない。
首輪をしている猫が多いのは、捕獲されてしまった場合の区別のためだろう。だが、その中には去勢・避妊手術もほどこされず、三種混合のワクチンさえ打たれていない猫たちも多い。

そして、そうした半外飼いの猫たちの問題はほかにもある。自宅を売った場合、またはそれが借家だった場合に、家の新しい住人が取り残された半外猫たちを発見することが多くなっているのだ。

日本と同じく、犬や猫を捨てることはオーストラリアでも立派な犯罪だ。

しかし、登録制の犬と違い、猫は飼い主を特定することが難しい。そうした苦情が猫愛護団体に多数寄せられるようになり、団体としても黙っていられなくなったらしい。州政府に嘆願書を出して、直接政府側から不動産代行店へ提案を出してもらうようにした。(Cat Alliance of Australia, ABANDONMENT OF CATS (DOGS) ON RENTAL AND SOLD PROPERTIES)

どこの国でも、ペット福祉の問題はあるだろう。

が、わたしはこの放し飼いの猫たちを近くで見るたびに、彼らの生活が常に死と隣り合わせにあることに、そして、餌をもらっている野良猫たちとあまり変わらない生活をしていることに、暗澹たる思いを抱くのだ。

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5 COMMENTS

alu

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本当に悩ましい問題ですよね。

以前、英会話を教えてもらっていたシドニー出身の男性も(日本人と結婚して)猫を2匹飼ってましたが、出入り自由にしていました。 後に私がラグと暮らし始めた時「なぜ外に出してあげないんだ? 猫とは・・・」と結構熱く語られました。 その時はブリーダーさんとの約束だからと言うだけで終わったけど、約束なんかなくっても外には出さないよって心で思ってました。
私の住む小さな町で、ちょうど近所のお宅も放してます。
色々想像したら怖くならないのかなって不思議でしょうがないけど
自然に触れさせ、自然界の小動物を狩りしたりできてこそ猫生なんだ的な
ことを危険回避より重んじてる人とは平行線にしかならないのかと
やはり暗澹たる気持ちになるのです。

上記のお宅とは別に
出入り自由にさせている多頭飼いの知人宅で一匹が車道に出て命を落としたときも
「だから出したりするから」とは思ったものの、時間が経った今でも何も言えない私です。

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がび

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★aluさん:

そのオーストラリア人の言いたいことがわからないわけじゃないんですけどねえ…。「その自然に触れされ小動物の狩りをする」猫の習性自体が「保護動物の多いオーストラリア」で猫が目の敵にされる大きな理由なんです。ですから、TNRという「捕獲、去勢/避妊、解放」という日本でも目にするようになった野良猫保護が、オーストラリアで全く行われないのは、「野良猫は保護動物を食うから捕獲後安楽死が当然」と言う意味なんです。

猫の死の大半が2歳から5歳まで、それも外界での交通事故と喧嘩と感染症です。それを考えたら、外に離すことには疑問を持ってもいいはずなんですけど。

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alu

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なるほど・・・、「保護動物の多いオーストラリア」ってことからそうなのかと初めて知りました。
改めて、放さないで!って思いです。
う~ん!勉強になりました。 有難うございます。

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はなぴん

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その土地土地の風習があるんでしょうけど・・・
日本じゃ考えられないですね。。
私は自分の家族の猫達が交通事故でなくなるなんて考えられない。
でも根本的な考えが違うと・・きっと話し合っても理解しあえないんでしょうね(/_;)

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がび

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★aluさん:

オーストラリアは日本に比べてはるかに保護されている動物が多いんです。パースは中心部を抜けると住宅街でもそうした小動物がいますから。猫だけが害獣じゃないんですが、知識のないオーストラリア人はなぜか猫を目の敵にするひとが多いです。

★はなぴんさん:

交通事故で自分の猫を失うなんて、わたしにも考えられません。先代猫も完全内猫だったし、実家の猫たちもそうでした。でも、普段話していると「え、あなたの猫も外に出すの?」と言うことが多いです。本当にほとんどのペット猫たちが半外飼いなんです。もちろん、去勢や予防注射をしている猫たちもいますが、してない飼い主もまだ沢山いるんです。悲しいです。

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