先ほど友達から電話があった。
辛い決断をした彼女は泣いていた。
11歳のゴールデンリトリバー犬を安楽死させたのだった。
彼女もスパーキーもメルボルン出身だ。
スパーキーは7歳のときに癌にかかった。どこの癌だったか忘れてしまったが、そのとき彼女は化学療法や治療でかなり高額の支払いをした。幾人かのひとは「犬に化学療法?」と笑ったと言う。それでも、医者の言うとおり、化学療法はめざましい効果を見せて、スパーキーはよみがえった。
「治る可能性のある病気は、どんなことをしても治してあげるわ。家族ですもの」と彼女は言った。
その後、彼女はご主人の転勤にともなってパースに引っ越してきた。2人の子供とスパーキーも一緒だった。彼女の家は大きな一軒家で庭も広い。家の裏のドアには犬用ドアが取り付けてあり、スパーキーは好きなときに庭に出られた。
そして、事故が起きた。
庭から道路に出る木戸が、どうしたことか開いていたのだ。スパーキーの悲鳴と急ブレーキに彼女が家から飛び出したときには、すでに遅かった。それでも、前足で掻いて立ち上がろうとする血まみれのスパーキーをタオルで抱きかかえて、車に載せ、獣医クリニックの緊急医療に走った。
しかし、手の施しようがなかった。
「何とかしてください」と、彼女は泣き叫んだ。
「治療をしてもすでに遅すぎます。いずれあと何時間かで死んでしまいますよ。苦しませるのはもっとかわいそうだとは思いませんか。楽にしてあげるのは、飼い主の義務です。犬はなぜこんなに苦しまなければならないのか、なぜあなたが助けてくれないのか、理解できないんです」
そう言われたとき、彼女はわかった。ものを言えないスパーキーに代わって、彼女が決断を下さなければならない、と。
そして、スパーキーは獣医の手によって永遠の眠りについた。
「わたしのやったことは正しかったよね?」
「うん、絶対正しかったよ。絶対正しかったよ」
そして、わたしはもうひとりの獣医のことを思い出していた。
同じように、「犬はなぜあなたがこの苦しみから救ってくれないのか理解できないんですよ」と言ったひとだ。
もう何年も前、まだゆきちゃんがいたときのことだ。
彼女の常用薬をもらいに、買い物のついでに獣医クリニックに寄った。すると、恐ろしげな入れ墨のとても大きくてイカツイひとが診察室から出て来た。毛布にくるまれた死んだ大きな犬を抱きしめて、おいおいと泣きながら。しゃくりあげ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、周りのひとの誰も目に入らない。そのあまりの無防備な悲しみに驚いて、わたしも思わずもらい泣きをしてしまった。
診察室から出てきた獣医さんに、涙を拭きながら「どうしたんですか」と訊いた。
「安楽死させなければならなかったんです。悪性リンパ腫で、もう手遅れの状態。手術をしても老犬なのでもたないけれど、痛みがひどく衰弱が始まっています。食事もできないし、もうすでに立ち上がれない。安楽死を選ぶのは、飼い主の義務です。」獣医さんは、わたしの目をまっすぐに見つめて答えた。
「犬には、なぜこんな苦痛と恐怖を味あわなければならないのかわからないんですよ。あなたが側にいるのに救ってくれないのがどうしてもわからないんです。苦痛を終わりにしてあげるのは、義務だと思いませんか。」
わたしは、答えられなかった。
安楽死を選ばなければならない立場になったらどうするだろう。「決心して安楽死させる」精神的な苦しみと、実際のペットの肉体的苦しみとを天秤にかけなければならなくなったら。
ただし、「飼い主の義務」という言葉はこれから一生頭から離れないだろうと思う。わたしの友達も、手放しで号泣していた男性も、限りない愛情に裏打ちされた義務を立派に果たしたんだ。
スパーキー。合掌。
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とっても重い言葉ですね。
何故助けてくれないかわからない。この言葉がとても辛いです。
スパーキーが虹の橋を渡り、又家族一緒に会えます様に。
そして、がびさんのお友達の方のココロが一日も早く笑えます様に。
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私のチャッピーも悪性リンパ腫でした。
ステロイドと抗がん剤の何クールか、そして丸山ワクチンも処方され、副作用もなく延命に成功しました。
そしてその治療も策が尽きたとき、とてもありがたいことにその子は亡くなる日の朝までマクドナルドのナゲットを美味しそうにほおばり、それから3時間後に眠るように息を引き取りました。
それはとても恵まれた最期であり、歴代の子たちの中には、苦しみのあまり安楽死を選択せざるを得なかった子もいました。
その選択の時期、瞬間、その後まで、飼い主さんの責任であり、愛情でもあると信じています。
その方の選択は正しかったのです。
1日も早く、心が癒えることを祈ります。
そしてスパーキーのためにも、笑って思い出話ができる日が早く来ますように。
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★鍵コメさん:
ありがとうございます。別の方法でお返事をしました。
★藤田里美さん:
今日の午後、友達に電話をしました。いつもはハツラツとしている彼女が沈んだ声でしたが、家族全員で悲しみを分かち合っているようでした。
癒える日は来ると信じています。忘れはしないけれど、楽しい思い出を話し合える日が来ると信じています。
★ヘンリー王子さん:
そうでしたか…。悪性リンパ腫は怖い病気ですよね。人間でもそうですから。
チャッピーは幸せでしたね。治療も成功し、最後まで苦しむこともなく。
でも他の子たちだって、飼い主が安楽死を選ばなければならなかった子たちだって、幸せだったと思います。だって、飼い主は自分が精神的に苦しむほうを決断して、その子たちの苦しみを終わらせてあげたのですから。
今度電話するときに、また「あなたは正しかったのよ」と言ってあげます。
ありがとうございます。
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切ない苦しいお話ですね。
でもいつ自分のことになるかわからないことです。
今から準備をする必要等ないかもしれませんが
こういうこともあるのだと知っておくことは大切なことですね。
自分のつらさよりも愛犬を苦しみから救ってあげる選択・・・
お友達の心が癒える日を祈っています
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★flanmamaさん:
友達が早く元気になってくれるといいんですけど。
つらい選択ですけれど、いつ我が身に来るかわかりませんものね。
わたしが見送ったペットたちは、安楽死を選択する立場になりませんでしたが、
これからはわかりません。
願わくば、苦しい思いを長引かせないようにしたいものです。
ありがとうございます。