母猫は、すばしこい。
わたしが知らずにちょっと裏のドアを開けただけで、目にも留まらぬ速さでオリーブの木を駆け上がる。そして、向こう側に消える。ただ、すでに1週間も餌付けをしているから、必ずケージには入るだろう。
問題は、仔猫たちだ。たぶん離乳に入ったばかりだろうが、それでもまだ母乳を飲み続けているはずだ。母猫がいなくなったら、すぐに飢えてしまうと聞いた。こんな最悪事態だけは避けたい。
わたしの計画では、まず母猫を捕獲し、そのまますぐにシェルターに持ち込む。その後で、仔猫たちの捕獲に取りかかる。お腹がすいているだろうと期待してケージのゴハンで釣ってみて、上手くいったら3匹一緒に…とバラ色の成功を夢見ているが、現実がそう上手く運ぶとも思えない。
ネットの友達に丁寧に教えてもらったのは、片手で仔猫を遊ばせながらもう一方の手で捕らえる方法。でも、3匹もいるのにできるだろうか。
素手で捕まえるには住処が遠過ぎる。このごろでは、わたしが出ていくとさっとレンガの向こう側に隠れてしまうからだ。それに、隣家の庭に逃げられてしまったらおしまいだ。ということで、ハシゴは捕獲期間中はそのままかけておくことにした。万が一向こう側に逃げられてしまったら、ハシゴを伝ってあちら側に忍び込み、仔猫たちを素手で捕獲する。そのために、ダンボール箱も用意した。噛まれたり引っ掻かれたりするだろうから、軍手も2枚用意。長袖のコートも冬物タンスから引っ張り出した。それでもダメだったら….ええい、ままよ。何とかなる、と自分に言い聞かせた。
眠れぬ夜を過ごした日曜日の朝は、うとうととしただけで5時に目が覚めた。
あまり早くてもまずいので、8時まで待ってから罠のツナ缶を置いたケージを仕掛け、ふわりと毛布をかけてからそっとうちに戻る。裏の窓からそっと覗いていると、母猫がケージの周りの匂いを嗅ぎ始めていた。そして息を詰めて見つめているわたしの目に、ケージの中にそろそろと入る彼女の姿が映った。
入った。
そして5秒後、すとんというケージドアの降りる音が聞こえた。
家の中から走り出ると、三角に開いたケージドアの隙間からちょうと母猫がすり抜けるところ。ドアは閉まったのに、ロックがかかっていない。なんと途中で引っかかって止まってしまったのだ。
どうして失敗したのだろう。ケージを置く場所が平らではなかったのか。それとも、庭の草が間に入り込み、ロックを途中で引っかけてしまったのか。餌はきれいに食べられていた。
眠れないほど緊張して用意万端だったのに。あんなに何度もロックを落とす練習までしたのに。道具も全部きちんと用意して完全装備だったのに。何というドジだ。
緊張と落胆で、涙が出てきた。
もう今日はできないから、彼女が忘れた頃の明日か明後日にもう1度。檻自体には何の恐怖も感じないようなので、明日もきっと入るはず。この檻が来れば餌も中にある、ときっと覚えているはず。用心のため、明日はケージのドアを開けたまま、中に餌を置こう。
ケージの罠として置いたツナの量が少なかったことに気づいて涙をぬぐい、いつもの皿にたっぷりと生肉を盛り、もう一度外のいつもの場所に出した。「明日があるさ」
「風とともに去りぬ」のスカーレット・オハラじゃあるまいし、自分で声に出してみてその可笑しさについ笑ってしまった。
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